【第185号】区域麻酔と手術について、超音波ガイド下末梢神経ブロックについて | くす通信 | 国立病院機構 熊本医療センター

【第185号】区域麻酔と手術について、超音波ガイド下末梢神経ブロックについて

くす通信

区域麻酔と手術について、超音波ガイド下末梢神経ブロックについて

 【区域麻酔と手術について】

 手術の侵襲が大きいものでは全身麻酔が必要となります。

全身麻酔
全静脈麻酔
全静脈麻酔

 全身麻酔には大きくわけて二種類の麻酔があります。一つはかがせる麻酔薬(吸入麻酔薬)を主体とした吸入麻酔、もう一つは近年広く行われるようになった点滴からいれる麻酔薬のみで全身麻酔を行う全静脈麻酔です。この二種類の麻酔に加えて手術中、手術後の鎮痛を目的とした区域麻酔を併用します。区域麻酔の代表的なものには硬膜外麻酔と超音波ガイド下末梢神経ブロックがあります。


区域麻酔

硬膜外麻酔
硬膜外麻酔
 硬膜外麻酔は痛みを伝える神経を脊髄の近くでしびれさせる麻酔です。全身麻酔をかける前に横向きになって背中に細いチューブを入れます。手術中や手術後にそのチユーブから局所麻酔薬を投与し痛みを伝える神経をしびれさせることで鎮痛を行います。
 超音波ガイド下末梢神経ブロックは近年急速に普及した手技です。超音波装置を使用して痛みを伝える神経を確認し、その周りに直接局所麻酔薬を注入し、しびれさせることで鎮痛を行います。


麻酔と免疫

 近年、手術やそれに伴う麻酔が免疫能を低下させることがわかってきました。特に免疫能を低下させる原因と考えられているのが全身麻酔に用いられる吸入麻酔薬と鎮痛のために使用するオピオイド(麻薬などの鎮痛薬)です。免疫能の低下は周術期の感染症のリスクを高めたり、周術期のがんに対する免疫応答を低下させるといわれています。特に最近話題となっているのが、麻酔によるがんに対する免疫応答の低下が手術中のがん細胞の増殖や転移を誘発する可能性があるということです。つまり、がんの手術においては麻酔に使用する薬の使い方が患者様の手術後の予後(たとえば5年後の生存率など)にかかわってくるということです。実際、免疫の低下を引き起こしやすいと言われている吸入麻酔と全静脈麻酔ではがんの手術の予後に差があり、静脈麻酔で手術を受けた方のほうが予後が良いという論文が今年発表されました。

 われわれがこの免疫能の低下をさけるためには吸入麻酔薬をさけること、オピオイドの使用量を減らすということが大事になってきます。ここで重要になってくるのが前出の区域麻酔の積極的活用です。全静脈麻酔で全身麻酔を行い、区域麻酔を十分に効かせて鎮痛することで麻酔に必要となるオピオイドをかなり減らすことができます。
 当院では全身麻酔における全静脈麻酔のしめる割合が高く、また、区域麻酔も積極的に行っているため、免疫という面では非常に都合のよい麻酔を行っていると言えます。

 今後はさらに免疫を維持する麻酔がトピックとなってくるでしょう。私たちもこれからできるだけ患者さまのことを考えた麻酔を行っていきます。


(麻酔科医長 宮﨑直樹)

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 【超音波ガイド下末梢神経ブロックについて】


超音波(エコー)検査

 超音波とはいわゆる「エコー」という通称で呼ばれているものです。「エコー」検査は、一般的には腹部臓器や心臓などに対して行う検査です。


 体の表面に超音波を発信するプローブといわれるものをあてて、そのプローブから放たれた超音波が体の中に進み、その反射した信号を画像に変換して体の中の状態をみることができます。最近は、超音波装置の機能向上に伴い、画質が鮮明となり、この超音波を用いることで神経自体の描出が可能となっています。

 末梢神経ブロックとは、痛みに関与する神経の周囲に局所麻酔薬を注射し、神経をしびれさせることにより痛みを軽くする方法です。痛みには手術に関連した痛みもあれば、帯状疱疹後神経痛や三叉神経痛などの慢性的な痛みもあります。

超音波ガイド下末梢神経ブロック
超音波ガイド下末梢神経ブロック

 超音波ガイド下末梢神経ブロックとは、痛みに関わる神経に超音波をあてることによって神経と神経の周囲組織を描出し、描出した神経の周囲に局所麻酔薬(しびれさせる薬)を注射することにより、神経を一時的にしびれさせ痛みを感じにくくする方法です。


 以前は、体表の構造物を目印として神経の位置を推定し、その位置に局所麻酔薬を注射することで神経をしびれさせるランドマーク法といわれる方法もしくは体表の構造物を目印として神経の位置を推定し、その位置に注射の針を刺入し針から流れる電流で神経をさがしその位置に局所麻酔薬を注射することで神経をしびれさせる電気刺激法のいずれかの方法で末梢神経ブロックは施行されていました。最近の十数年で超音波装置の機能が向上し、超音波により良好に神経を描出できるようになりました。そのため、以前の方法に比べてより確実に神経の近くに局所麻酔薬を注射することが可能になりました。

写真1、腰神経叢ブロック施行中の写真
写真1、腰神経叢ブロック施行中の写真

また、確実に神経の近くに注射をできるようになった結果、除痛することができる時間も長くなりました。神経周囲の構造物も明確に描出できることにより注射に伴う合併症も減少しました。神経周囲の血管の誤穿刺や神経自体の誤穿刺などさまざまな合併症の頻度が減少したと考えられています。この超音波を利用した末梢神経ブロックのことを超音波ガイド下末梢神経ブロック(Ultrasound guided peripheral nerve block、USGPNB)と呼んでいます。(写真1、腰神経叢ブロック施行中の写真)


 熊本医療センター麻酔科では2009年頃からこの超音波ガイド下末梢神経ブロックを手術後の鎮痛目的に取り入れはじめました。特に整形外科領域の手足の骨折、変性疾患を中心に消化器外科や形成外科など多科の手術においてブロックを施行し、現在では年間約1500のブロックを施行しています。今後も施行するブロックの数、質をあげていき、より多くの患者さまが痛みから解放されるようにこころがけていこうと考えています。

(麻酔科医長 宮﨑直樹)


診療科の特色

<麻酔科>

 現在、麻酔科は7人の麻酔科医が常勤しています。また1~2名の麻酔専門の非常勤医師が日替わりで勤務、さらに歯科麻酔専門の歯科医師が勤務し、麻酔を行っています。
 手術室は10室あり、毎日約20人の患者さまが手術・麻酔を受けています。
 手術前日には診察室にて手術前の診察を行い、患者さまひとりひとりの状態を把握し、患者さまの状態に応じた麻酔方法を計画します。何かご質問がありましたら、診察の際に麻酔科医にご相談ください。
朝のカンファレンスの様子
朝のカンファレンスの様子

全手術室(10室)の様子を見ることが出来るモニター
全手術室(10室)の様子を見ることが出来るモニター



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