【第169号】動物咬傷について、動物咬傷時の対応について | くす通信 | 国立病院機構 熊本医療センター

【第169号】動物咬傷について、動物咬傷時の対応について

くす通信

動物咬傷について、 動物咬傷時の対応について

 【動物咬傷について】

 哺乳類に咬まれてけがをする(咬傷)は日常よく目にします。イヌによるものが8割以上、次いでネコが約1割となっています。

 動物に咬まれるとその牙により鋭く深い傷ができ、強い力も加わって周囲の正常組織が壊されます。口の中には数多くの細菌が存在し、傷深くに細菌が入り込むことで容易に感染症を起こします。多くは脂肪組織までの感染症:蜂巣炎(ほうそうえん)にとどまりますが、筋肉まで達する感染症:壊死性筋膜炎(えしせいきんまくえん)や敗血症性ショック(細菌が血流に乗って全身に回り、命の危険を伴う状態)になる場合もあります。

 イヌとネコの咬傷を比べると、咬傷の頻度はイヌの方が約10倍と多いですが、感染症を引き起こす確率はネコの方が約10倍多いです(日本の飼い犬の数は飼い猫の1.2倍と大差ありません)。これはネコの口の中が汚れているからではなく、ネコの牙の方が細く鋭いため入り口は小さいものの深い傷になりやすいためです。

 咬傷感染症の診察にあたっては受傷者の病歴が重要です。すなわち

などを確認します。

 治療としてはまず創部を十分に洗浄します、必要に応じて局所麻酔をして切開したり損傷した組織を切除したりします。口の中には酸素がなくても発育できる細菌(嫌気性菌)も多く、それらに有効な抗菌薬を投与します。破傷風のワクチンを10年以上接種していない方、接種状況が不明な方には破傷風のトキソイドや免疫グロブリンという注射をすることもあります。

 そしてペットを飼う際には温厚なペットを選ぶ、キスをしたり口移しで食物を与えたりしない、寝室や寝床にペットを入れないなど日常の心がけも重要になります。かき傷などから感染症を起こすこともあるので、ペットの爪を切ったり爪カバーを装着したりする、接触後に手洗い・うがいを行うことも大切です。

 最近のペットブームによるペット数の増加に加えて高齢化社会の進行により基礎疾患を持った方が動物咬傷を受傷する機会は多くなり、咬傷感染症はさらに増加すると考えられます。動物に咬まれた場合は重症化する場合があることを十分注意しながら、ペットとの絆を深めて頂ければ幸いです。

(皮膚科医長 牧野 公治)

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 【動物咬傷時の対応について】

 動物に咬まれた場合、傷口を流水で十分洗い、ただちに医療機関を受診してください。治療に際し①傷の評価、②十分な処置(洗浄、異物除去)、③一時縫合するか否かの決断、④予防的抗菌薬投与の適応と選択、⑤破傷風および狂犬病予防の適応の判断を行います。

 パスツレラ症はイヌやネコの口の中に存在するパスツレラ菌によって起こります。噛まれたり引っかかれたりしてから約30分~数時間後に激痛を伴う腫脹と浸出液が排出されます。糖尿病や呼吸器疾患を持った人は、肺炎を起こすことがあるので注意が必要です。

 猫ひっかき病はバルトネラ属の菌が感染することによって起こります。ネコやイヌに引っかかれた傷や噛まれた傷から感染し、頸部のリンパ節の痛み・腫れ、発熱などの症状が起こります。抗生物質を使用しなくても6~12週間で治りますが、重症になることもあるので注意が必要です。

 狂犬病は、近年国内では発生がないので、特別な事情がないかぎり狂犬病の免疫療法は行われていません。海外ではむやみに動物に触らない、狂犬病の流行国でイヌに接する機会がある場合、渡航前にワクチンを接種しておくなど、注意しましょう。

 ヘビに噛まれてしまった際に、興奮すると余計に毒素が身体を回るので、できるだけ落ち着いて行動することが大事になります。走り回ると脈拍も速くなり、毒が体中に巡ると大変なのでゆっくりと歩くようにしましょう。

 動物による咬傷の場合、破傷風の予防を考える必要があります。破傷風の予防のためには破傷風トキソイド、抗破傷風免疫ヒトグロブリンを投与します。トキソイドとは、細菌の毒素だけを取り出して無毒化し、ワクチンにしたものです。細菌に感染したときに、毒素による発病を防ぐことができます。破傷風トキソイドは、過去10年以上接種歴がない場合に接種を要するとされています。1968年以前生まれなど全く接種が無い方は、受傷直後・1ヶ月後・6ヶ月後の3回接種を行います。その後は10年毎に1回接種します。1968年より後に生まれた方は定期接種がはじまっており、1回接種したあとは10年おきに接種します。とくに60歳以上の方に破傷風は多く発生しています。傷の汚染の度合いによっては、5年以内でもトキソイドや抗破傷風ヒト免疫グロブリン(テタノブリン-IH)を接種することもあります。

 一般に抗生物質が使用され、ペニシリン系のアモキシリン-クラブラン酸の経口投与、あるいはアンピシリン‐スルバクタムの静脈内投与がおこなわれます。これらは動物が保有している黄色ブドウ球菌や溶連菌、パスツレラ菌、重症化しやすいカプノシトファガ菌に対して有効です。その他キノロン系薬剤やテトラサイクリン系薬剤が使用されることもあります。

 最後に、ヒトに噛まれてしまった場合、放っておくと1週間ぐらいで膿んでくる(臭い)ことがあります。原因は歯周病菌が多いので、それに合わせた抗生物質が処方されます。また、ウイルス肝炎やHIV(ヒト免疫不全ウイルス)に感染することもあるので、噛まれたら受診するようにしましょう。

(感染管理認定看護師 益田 洋子)


診療科の特色

<皮膚科>

 私達は急性期病院の皮膚科として、主に入院治療が必要な皮膚疾患を診療しています。「断らない救急」を掲げており4割以上は救急外来からの入院です。入院される方の1/3以上は動物咬傷を含む皮膚細菌感染症の方です。外来診療では地域の皮膚科や他科からご紹介頂いた方や全身症状に関連した皮膚疾患の方を中心に診察しています。
 皮膚疾患は皮膚に限局するものだけでなく、全身に影響を与えるもの、全身症状の一部として生じるもの、他の病気から続発するものと様々です。またアトピー性皮膚炎などQOLを強く損ねる疾患も多数あります。皮膚の問題改善を通じて皆様のお役に立てればと思っておりますので宜しくお願い致します。


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