最近のTOPICS – たかが咳、されど咳 | くまびょうニュース | 国立病院機構 熊本医療センター

最近のTOPICS – たかが咳、されど咳

【134号(2008.8)】

最近のTOPICS – たかが咳、されど咳

呼吸器センター

呼吸器内科医長
  柏原 光介

 先生方は鎮咳剤に反応しない頑固な咳嗽に困られたことがありませんか?

 咳嗽は、我々が最も頻回に遭遇する呼吸器症状であるにもかかわらず、治療に難渋する病態の1つです。患者様も風邪の一症状程度にしか考えておられませんので、治らなければすぐに別のクリニックや病院に気楽に移って行かれます。また我々医師の側もたくさんの咳嗽患者様を診ている訳ですので、まずは風邪の治療をしてみましょうと総合感冒薬や鎮咳剤で様子を見てしまいます。その結果、慢性咳嗽の患者様はいつまでたっても風邪の治療しか受けられず辛い思いをされることもあるようです。私は慢性咳嗽の患者様を診る場合には、「すぐに治らなくても諦めず私の外来に来てください。近い将来あなたに合った治療方法が見つかりますから」と説明するようにしています(これで苦労することも多いのですが)。

 発症して3週間以内の咳嗽を急性、3〜8週間の咳嗽を亜急性、8週間以上続く咳嗽を慢性と定義します。急性咳嗽の原因として多いのは、感冒、下気道感染症、慢性疾患(慢性閉塞性肺疾患、喘息、気管支拡張症など)の増悪です。亜急性咳嗽では感染後咳嗽、特に百日咳の関連性が重要視されています。慢性咳嗽の原因としては、急性・亜急性咳嗽の原因疾患に加えて多彩な疾患がその原因となりますが、特に診断に難渋するのは慢性乾性咳嗽です。

 病歴、身体診察、胸部X線・呼吸機能を含む検査を行っても慢性乾性咳嗽の原因がはっきりしない患者様を診察する機会がありましたら、表1を思い出してください。「診断が困難であった慢性乾性咳嗽を来す病態」には5種類の病態が示されています。Aは喘息(asthma)とACE阻害剤内服です。喘鳴と呼吸苦のみが喘息の症状ではありません。乾性咳嗽も重要な喘息の症状です。肺活量検査で正常範囲と判断されても気管支拡張剤の吸入後に努力性肺活量もしくは1秒量の改善(200mlかつ12%の改善が観察されれば気道可逆性の証明になります)が観察され、隠れた喘息が発見されることがあります。肺活量検査の機器がない場合には、患者様の背中に聴診器をあてて、最大吸気より出来る限り勢いよく空気を吐き出してもらうこと(強制呼出)で「ヒュー」「グー」「キュッ」といった気道狭窄音を聞くことができることもあります。ACE阻害剤には乾性咳嗽という有名な副作用があり意外に見逃されています。降圧剤と咳嗽は一般の方には結びつかないものですので、これを見つけると患者様から感謝されます。

診断が困難であった慢性乾性咳嗽を来す病態

 
Bは慢性気管支炎です。画像診断で診断可能な肺気腫と違って、慢性気管支炎は「持続性あるいは反復性の痰を伴う咳が少なくとも連続して過去2年以上、毎年3カ月以上続くもの」と定義される病態であり、喀痰が少ない場合には落とし穴になります。禁煙が最良の治療方法です。

 Cは咳型喘息(cough variant asthma)と非喘息性好酸球性気管支炎(non asthmatic eosinophilic bronchitis)です。咳型喘息は咳嗽が唯一の症状であり喘息の既往歴や喘鳴がありません。なぜ「喘息」という名前がついているかと言えば、喘息の薬(気管支拡張剤やステロイド)が著効することがその理由です。この疾患では、喘息と同じように気道内に好酸球というアレルギー細胞が浸潤し気道過敏性が存在します。加えて、咳型喘息と診断された患者様の約30〜40%が典型的な喘息に移行することが報告され、アメリカの慢性咳嗽ガイドライン(ACCP,
2006)では喘息の亜型に加えられています。非喘息性好酸球性気管支炎は喘息と同じように気道内に好酸球が浸潤する病気なのですが、気道過敏性がないことから「非喘息性」と命名されています。病態に違いはありますが、いずれもステロイド吸入が著効する疾患群です。

 Dは後鼻漏(postnasal drip syndrome)です。この疾患は副鼻腔炎などの慢性疾患を原因として鼻汁が喉頭に落下して発作性の咳嗽を誘発する疾患です。ACCPのガイドラインでは後鼻漏は上気道咳嗽症候群(upper
airway cough syndrome: UACS)と記載されています。日本では慢性咳嗽の分類に咳型喘息と似た病態で「アトピー型咳嗽」という疾患が記載されていますが、第一世代抗ヒスタミン剤が効果あることなど類似点が多いことからアメリカの分類ではこの上気道咳嗽症候群に含まれるものと思われます。

 Eは胃食道逆流症(gastro-esophageal reflux)です。胃酸の逆流によって咽頭喉頭が炎症を起こし、喉のイガイガ感を伴う、特に起床時に強い咳嗽が特徴的です。制酸剤であるH2ブロッカーやプロトンポンプ阻害剤で咳嗽が治まるという変わった病態であり、この病態では劇的な効果が期待できます。

 表1に示しました5分類、7疾患の中で、臨床的によく遭遇するのは、好酸球関連の肺疾患である喘息、咳型喘息、非喘息性好酸球性気管支炎です。病態に違いはありますが、臨床的に鑑別が重要なわけではなくステロイド吸入が著効するという共通点がポイントです。ACE阻害剤内服歴のない慢性乾性咳嗽の患者様にはまずステロイド吸入をお勧めします。

 私は、ステロイド吸入を2週間して頂き咳嗽に改善が得られなかった場合に後鼻漏や胃食道逆流症の否定のために耳鼻咽喉科受診や制酸剤治療を行うようにしています(ステロイド吸入に初めから抗ヒスタミン剤と制酸剤を併用すればいいのかもしれませんが、どの薬剤が効いたのかわからなくなり減量する際に困るため、私はこの併用はしておりません)。もしリン酸コデインが使用されていなければステロイド吸入にリン酸コデイン(60mg/日)を併用するのも効果的です。

 もし、それでもだめなら呼吸器専門医に任せてしまいましょう。骨のある症例のご紹介をお待ちしています。

診断フローチャート